不動産売買トラブル
はじめに
不動産の売買契約は、売買契約の目的となる不動産が一般的に高額であり、また、各物件ごとに個別性があることから、他の取引に比して、慎重に取引が行われています。
しかしながら、不動産売買契約において、契約の相手方が契約内容を履行しない場合や、物件に欠陥(瑕疵)が存在することが判明した場合など、法的なトラブルが生じ得る場合も多々存在します。
トラブルの類型や個別の事情により取るべき対応は異なりますので、依頼者の方の権利・利益を最大化できるように、個別の事情に即した方針、及び戦略をご提案させていただきます。
不動産売買トラブルの事案ごとのポイント
売買代金の請求
不動産売買契約締結後に買主が売買代金を支払わない場合、売主は買主に対して売買代金の支払いを請求することができます。
売主の買主に対する売買代金の請求事案の場合、ポイントとしては、まず、売買契約の成否、若しくは、契約の内容(売買代金の金額等)が問題となる場合があります。 不動産売買契約では、動産の売買と異なり、契約締結までに交渉が積み重ねられることが多く、どの時点で売買契約が成立したのかということが問題となることがありますが、裁判実務では、基本的には、契約書の作成により契約が成立したと認定する傾向にあります。
また、売買代金の請求事案において、売買代金の支払い時期や、目的物の引渡・登記手続との同時履行、その他の契約の履行条件等が問題となることもあります。 このような場合には、通常、売買契約書で定められている売買の条件等を基礎として、記載のない事項については売買契約時等の諸事情を考慮して、当事者の主張の当否が判断されることになります。
更に、買主側から、売買契約の解除や、売買代金請求権を損害賠償請求権と相殺するという主張がなされることがあります。 こうした場合には、買主側が主張する、解除事由や損害賠償の原因となる、債務不履行や瑕疵担保責任などの事由が存在するか、ということが争点となります。
目的物の引渡請求・登記移転手続請求
不動産売買契約締結後に売主が物件の引渡を行わない場合や、登記の移転手続きを行わない場合には、買主は売主に対して物件の引渡、登記手続を請求することができます。
目的物の引渡請求事案や登記移転手続請求事案の場合におけるポイントとしては、売買代金請求事案と同様、売買契約の成否や、契約の履行条件等について争いがある場合があります。 また、売主側で売買契約の解除を主張するという場合もあります。
また、売主が、目的物の占有を第三者に移転するおそれがある場合や、目的物を第三者に処分するおそれがある場合には、強制執行不能となることを防止するために、訴訟提起前に、占有移転禁止の仮処分や処分禁止の仮処分の申し立てを行うことがあります。
瑕疵担保責任の追及
不動産売買契約の目的物に「隠れた瑕疵」(欠陥)が存在した場合、不動産の買主は、売主に対して、瑕疵担保責任に基づいて、損害賠償を請求したり、契約を解除したりすることができる場合があります。
瑕疵担保責任の事案の場合、ポイントとしては、物件に「隠れた瑕疵」があるといえるかが問題になることが多いかと思われます。 「瑕疵(かし)」とは、(1)目的物が通常有すべき品質・性能を欠いている場合や、(2)売主が特に保証した品質・性能を有しない場合等を意味しますが、買主が瑕疵であると主張する欠陥がこれらの場合に該当するのかということや、その欠陥が売買契約時に存在していたのか、等ということが争われることになります。 また、問題となる欠陥が「隠れた」ものであるかということについても、争われる場合があります。売買契約成立までの事情等から、買主が欠陥を知っていた、若しくは知ることが可能であったのではないのかということが争われることがあります。
また、売買契約において、瑕疵担保責任を排除したり、責任の範囲・内容を限定したりする特約が付されている場合もあり、こうした場合には、特約の有効性や適用の有無が問題となることもあります。
説明義務違反
不動産の売主は、売買契約に関する重要な事項については、買主に対して説明をする義務があり、売主が重要な事項の説明を怠ったことにより買主に損害が生じた場合、買主は売主に対して損害賠償を請求できる場合があります。 また、売主の説明義務違反によって、買主が契約の目的を達せられないような場合には、売買契約の解除が認められる場合もあります。
こうした説明義務違反の事案では、売買契約時に、売主がどのような説明をしたのか、また、説明された事項が重要な事項といえるのか、ということがポイントになります。
実際に裁判で認められた事例としては、(1)マンションの売買契約において、売主が日照・通風等についての正確な情報を提供する義務を怠ったとして損害賠償が認められた事案、(2)居住用不動産の売買契約において、売主が、隣人とのトラブルに関する説明義務に違反し損害賠償が認められた事案などがあります。
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