家賃滞納者に対する自力救済

はじめに

第1回目の今回は、賃貸物件の家賃滞納者に対する自力救済に関するお話です。

賃貸不動産のオーナーの方からの質問・ご相談として、「家賃を滞納している入居者の部屋の鍵を換えてしまってもいいでしょうか?」「家賃滞納して出て行ってしまった入居者の残置物を無断で処分してしまってもいいでしょうか?」というご質問をいただくことがよくあります。

結論からいうと、上記のいずれの場合についても違法となります。
特に、残置物を無断で処分してしまった場合、残置物の内容によっては、賃借人から損害賠償請求を受ける可能性がありますので、注意が必要です。

家賃滞納者に対する自力救済の禁止について

法律に定める手続きによらずに、相手の意思に反して強制的に権利を実現することは、原則として禁じられており、この原則を「自力救済の禁止」といいます。
我が国をはじめ、法治国家では、自力救済の禁止は法律上の大原則とされており、自己の権利の実現は、法的手続に基づいて実現しなければなりません。

判例(最高裁判所昭和40年12月7日判決)も、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解する」と述べており、自力救済は原則違法であり、「緊急やむを得ない特別の事情」がある場合にのみ、例外的に許容されるとしています。

不動産の賃貸借契約との関係では、例えば、賃借人が家賃を滞納しているからといって、賃貸人が、特段の緊急的な状況でもないのに、賃借人の許可なく物件に立ち入ったり、物件の鍵を交換して賃借人が物件に入れなくしたりした場合、住居侵入罪(刑法130条)や不動産侵奪罪(刑法235条の2)が成立する可能性があります。
また、賃貸人が家賃滞納者の残置物を無断で処分した場合には、窃盗罪(刑法235条)などが成立する可能性があります。

また、刑事上の責任とは別に、民事上、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。

このように、家賃滞納者に対して自力救済を行うことは、賃貸人にとって、非常にリスクが大きいです。そのため、家賃滞納者に対する対応としては、賃料支払を催告の上、建物明渡請求訴訟を提起し、債務名義を取得した上で、任意に退去をしない場合には、強制執行手続きを取ることをお勧めします。

賃貸人による残置物廃棄について損害賠償責任を認めた事例

実際に、裁判例においても、賃貸人が、家賃を滞納中の賃借人の残置物を搬出廃棄したことが違法であるとして、賃借人からの慰謝料請求が認められた事案があります。

大阪高等裁判所昭和62年10月22日判決は、公団住宅から約定に反して無断転居し、賃料の不払いがあった賃借人の部屋に、公団職員が立入り、残置物の搬出廃棄した事案において、公団職員の行為を違法と判断して、賃借人からの慰謝料請求を認容しています。

上記裁判例では、賃借人らの請求のうち、公団職員が処分した残置物の客観的価値相当額の損害賠償請求については、有価物を個別に選別特定して客観的価値を判断することは困難であるとして否定しました。
しかし、賃借人らの慰謝料請求については、「残留物のうちには、代替性がなく、特別の主観的価値を有する記念アルバムの無断廃棄が含まれ、かつ、自己のかつての居住場所であり、現に家財道具等を保管しその占有を保持していた建物を無断で明け放たれ、よつて、一種のプライバシーを侵される結果となったとみられることから、相応の精神上の苦痛を覚え、また人格ないし名誉感情が損なわれたと解される」として、2万円~5万円の慰謝料を肯定しました。
また、賃借人の弁護士費用として、1~2万円の弁護士費用相当額の損害を肯定しました。

上記事例では、慰謝料請求及び弁護士費用のみが認容された場合ですので、認容額は比較的低額にとどまっています。
しかし、例えば、賃貸人が処分した残置物に高額な動産が含まれており、賃借人がその存在を立証したような場合には、当該動産の価値相当額の損害賠償責任が肯定される可能性があると思われますので、賃貸人の方としては注意が必要です。

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