立ち退き料に相場はあるのか?

はじめに

今回は、立ち退き料のお話です。

賃貸物件のオーナーの方や不動産業者の方からの質問で、「立ち退き料って、家賃の何か月分が相場なんですか?」と聞かれることがよくあります。
また、賃借人として物件に入居している方からも、「相場どおりの立ち退き料をもらえるのであれば立ち退きに応じようと思っているので、相場を教えてほしい。」と質問をされることがあります。

しかし、身も蓋もない話かもしれませんが、法律上は、立ち退き料に「相場」はありません。また、立ち退き料を算定するための定型的な計算式もありません。 

そもそも、立ち退き料の支払いが必要かどうかも個別の事案ごとに全く異なり、事案によっては、立ち退き料の支払いなく建物明け渡しが認められたり、逆に、立ち退き料の提供を申し出ても、建物の明け渡しが否定されたりする場合があります。

そこで、今回は、立ち退き料に相場が存在しない理由、そして、どのような場合に立ち退き料の支払が必要かについてご説明します。

立ち退き料に相場が存在しない理由

「立ち退き紛争」のページでも説明していますが、借地借家法上、賃貸人から賃借人に対して、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れを行う場合に必要な「正当事由」は、賃貸人側の建物使用の必要性と賃借人側の建物使用の必要性を比較衡量して判断され、賃貸人側の事情のみでは「正当事由」が認められない場合に、立ち退き料(=財産上の給付の申出)が考慮されます。

つまり、賃貸人側が建物を使用する必要の程度が強く、それのみで正当事由が十分であると判断される場合には、立ち退き料の支払いは不要となります。
一方、賃貸人側に建物を使用する一定の必要性は認められるものの、それだけでは不十分な場合には、賃借人側の事情を考慮して立ち退き料の支払いが必要となります。
また、賃貸人側が建物を使用する必要性が弱く、賃借人が建物を必要とする程度が強度である場合には、立ち退き料を提供しても正当事由が認められない(=賃貸人の建物明け渡し請求が棄却される)ことになります。

このように、正当事由の判断において賃貸人側の事情が足りない場合に、プラスアルファの要素として立ち退き料が考慮されるため、立ち退き料の支払いが必要であるかは、個々の事案ごとに両者の全事情を考慮しなければ判断できないのです。

また、立ち退き料の支払いが必要な場合でも、立ち退き料の金額は、賃貸人・賃借人の建物使用の必要性の強弱を考慮して決定されるため、立ち退き料のみを取り出して論じることはできず、一刀両断に立ち退き料の金額を決めることはできません。

こうした理由から、立ち退き料の「相場」は存在しないのです。

立ち退き料の要否の判断ポイント

では、具体的には、どのようにして正当事由が判断され、立ち退き料の要否が決まるのでしょうか?
一般的には、以下のように、賃貸人側・賃借人側の事情の強弱が判断される傾向にあります。

賃貸人側の事情

例えば、賃貸人自身が建物を自己の居住のために使用するという場合、賃貸人の建物使用の必要性は強いと判断される傾向にあります。
また、賃貸人の親族が居住に使用するという場合も、賃貸人自身の場合に準じて判断されます。
もっとも、居住目的であっても、他に居住する物件が存在し、賃貸中の物件に居住しなくともよい場合には、使用の必要性は弱まります。

また、賃貸人が事業のために建物を必要とする場合、一定の必要性が認められる場合が多いかとは思われますが、強度については、事案によってかなり幅があります。
例えば、賃貸人が事業のために使用する建物が当該建物のみであり、かつ、そこで事業を行うことが唯一の生計を立てる手段であるという場合には、比較的、強度の必要性が認められると思われます。
また、これとは別に、賃貸人が当該借家とは別の建物で事業を営んでいて、事業を拡張するために建物を使用したいという場合、当該建物で事業を行う必然性は低いため、上記の例と比較して、建物使用の必要性は弱くなります。
 
また、近年増加している建物の老朽化による建物建て替え事例の場合、建物の老朽化の程度、建て替えの必要性の程度、代替手段(修繕工事、耐震補強工事等)の有無・費用等を考慮して、賃貸人側の建物使用の必要性の強度が判断されます。

賃貸人側の事情

賃貸人側の事情と同様に、賃借人側の事情としても、建物の使用が居住目的か営業目的か、また、営業目的の場合、営業の内容・業態等も考慮されることになります。

例えば、賃借人が建物で飲食店を営んでおり、建物周辺の顧客によって営業が成り立っている場合などには、立ち退きによって営業の基盤を失いかねないため、賃借人側に強度の必要性が認められる可能性があります。
逆に、賃借人が建物をオフィスとして使用しており、かつ、業態的にオフィスの位置に影響を受けないような場合には、賃借人の使用の必要性は弱まります。

また、賃借人側の場合、建物を使用している年数の長短も使用の必要性の判断の要素となります。

まとめ

このように、賃貸人の事情・賃借人側の建物使用の目的・使用の態様、使用の期間などが考慮されて、正当事由の存否、立ち退き料の要否が判断されることになります。
どちらの立場においても重要な点は、賃貸人・賃借人にとって、「どうしても、この物件でなければならないのか?」という点が判断の分かれ目となるポイントとなります。

(弁護士 利根川竜一)

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