眺望・景観トラブル
はじめに
建物が建築されることによって、近隣に居住する住民が従前から享受していた、眺望(特定人が特定の場所から得られる眺めや見通し)や、景観(不特定多数人が享受することのできる広域の眺めや見通し)が阻害される場合があります。
こうした場合、眺望・景観を阻害された近隣住民が、建物の建築主に対して、損害賠償等を行うことができる場合があります。
もっとも、眺望・景観の場合、日照や騒音・振動と異なり、生活との密接性が強いとはいえないこと、また、眺望・景観の価値が主観的な評価に基づくものである部分があることから、請求が認められる要件については、実務上、厳格に解されています。
眺望・景観トラブルの対応
眺望利益について
眺望については、民事上、一定の要件の下、法的に保護されており、これを不法に侵害した場合には、不法行為が成立し、損害賠償請求等が可能な場合があります。
裁判例(東京高等裁判所昭和51年11月11日決定)においても、「特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値をもち、このような眺望利益の亨受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の亨受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益である」と判断されており、眺望利益が一定の場合に法的保護の対象とされています。
また、同裁判例では、眺望利益侵害の判断基準については、一般的に是認されるべき限度を超えて、眺望利益を不当に侵害した場合には、眺望利益が法的保護を受ける旨を述べています。 また、上記の判断に関しては、当該行為の性質、態様、行為の必要性と相当性、行為者の意図、目的、加害を回避しうる他の方法の有無等の要素を考慮し、他方において被害利益の価値ないしは重要性、被害の程度、範囲、侵害が被害者において当初から予測しうべきものであったどうか等の事情を勘案し、両者を比較衡量した決定するべきであると述べています。
景観利益について
景観に関しても、眺望と同様に、一定の要件の下、法的利益として保護を受けています。
裁判例(最高裁判所平成18年3月30日判決)では、「良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。」と判断し、景観利益が法的利益であることを認めています。
もっとも、同裁判例では、景観利益侵害の判断基準については、景観の保護等については第一次的には行政法規や条例による規制によって保護されていること等を理由として、「ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。」と述べ、非常に厳格な要件を課しています。
対応手段について
眺望利益・景観利益の侵害が、上記の観点から違法といえるような場合には、眺望・景観を侵害された当事者は、建物の施工主に対して、不法行為を理由として損害賠償を請求することができます。 この場合、損害の内容としては、眺望・景観を侵害されたことにより被った精神損害についての慰謝料や、眺望・景観を売りに営業をしていたホテルや旅館等が眺望・景観の侵害によって客足が遠のいたという場合には、営業利益の減少等を損害として請求することが考えられます。