不動産の売主や仲介業者は、隣人トラブルについて説明義務を負うか?

はじめに

今回は、不動産の売買契約における売主仲介業者の説明義務についてのお話です。

売買契約の対象となる居住用不動産について、売買契約締結前から、隣人とのトラブルがあるという事情が存在する場合、売主や仲介業者は、買主に対して隣人とのトラブルの内容を説明しなければならないのでしょうか?

隣人トラブルに関する事情自体は、物件の形状・性質や設備等に関する事項とは異なり、それ自体が物件の状態を左右する事項ではありません。また、宅地建物取引業法第35条で明記されている重要事項にも該当しません。

しかしながら、居住用不動産の場合、隣人とのトラブルが著しい場合、買主の生活に重大な不利益をもたらすおそれがあります。
そのため、売主や仲介業者が、隣人トラブルの存在を知りながら、売買契約時に買主に説明しなかった場合、説明義務違反が認められる可能性があります。

売主や仲介業者の説明義務について

売主の説明義務

不動産取引において、売主は、売買契約に付随する義務として、信義則上、一定の重要な事項について買主に説明する義務を負っています。

そのため、売主が説明義務に違反した場合、買主は、売買契約を解除したり、損害賠償を請求したりすることができます。

仲介業者の説明義務

不動産仲介業者は、仲介契約における委託者に対して物件に関する調査・説明義務を負う他、不動産取引に関与した(直接の契約関係にはない)第三者に対しても、説明義務を負います。

そのため、買主が不適切な不動産を購入して損害が生じた場合、買主側仲介業者に対して債務不履行責任(又は不法行為責任)を追及し、売主側仲介業者に対して不法行為責任を追及することができる可能性があります。

隣人トラブルに関する説明義務違反を認めた裁判例

大阪高等裁判所平成16年12月2日判決では、隣人トラブルに関する売主と仲介業者の説明義務違反を認め、買主による損害賠償請求を一部認容しました。

事案の概要

本件は、買主が、平成14年に、仲介業者の仲介により、売主から、中古の居住用不動産(土地・建物)を購入したところ、購入直後に建物を訪れた際に、建物の隣人から、「うるさいんじゃー。あんたのガキ。」、「追い出したるからな。」などと大声で怒鳴られたり、ステレオの音量を大きくされたり、建物目がけてホースで放水されて建物内部を水浸しにされるなどのトラブルが生じたことから、建物での居住を断念したという事案です。
同隣人は、売買契約以前にも、(建物に居住していた)売主に対して、子供がうるさいと苦情を言ったり、洗濯物に水をかけたり、泥を投げるなどの行為を行っており、売主との間でもトラブルを起こしておりました。
そこで、買主が、売主、及び売主側仲介業者に対して、隣人とのトラブルを知りながら説明を行わなかったことが説明義務違反に当たると主張して、損害賠償を請求する訴訟を提起しました。

第1審(大阪地方裁判所平成15年10月15日判決)では、売主・仲介業者(被告)の説明義務違反が否定され、買主(原告)の請求は棄却されました。
しかし、同事件の控訴審である本判決(大阪高等裁判所平成16年12月2日判決)は、以下のように判断し、第1審の判断を覆して買主の請求を一部認めました。

売主の説明義務違反について

裁判所は、「契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合、契約当事者の意思としては、重要事項の説明は自らが依頼した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができ、売主本人は原則として買主に対して説明義務を負わないというべきである。」「しかし、売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である。」と述べ、売主が宅建業者に仲介を委託した場合には原則として説明義務を負わないとしつつ、例外的に、買主から、買主に重大な不利益をもたらすおそれがある事項について直接説明を求められた場合には買主に対して説明義務を負うとしました。

その上で、本件では、売主が、(1)隣人は、売主が建物に引っ越した翌日に「子供がうるさい。黙らせろ。」と苦情を言ってきたこと、(2)隣人は、平成12年3月ころにも子供がうるさいと怒り、洗濯物に水をかけたり、泥を投げたこと、(3)売主は、隣人について自治会長や警察に相談したこと、(4)本件の売買契約前に、別の購入希望者が仲介業者とともに内覧に訪れた際に、隣人が、「うるさい」と苦情を述べたこと、について買主に説明せず、また、(5)買主から隣人との関係について尋ねられた際に、隣人からうるさいと言われて子供部屋を移動させたことはあるが、その後は隣人から怒られたことがない等説明し、最近は隣人との間で全く問題が生じていないと誤信を生じさせたと認定しました。
そして、これらの事項は「購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項に関するものであるというべきである」として、売主の説明義務違反を肯定しました。

仲介業者の説明義務違反について

裁判所は、「宅地建物取引業法35条1項は、一定の重要な事項につき、宅地建物取引業者に説明義務を課しているが、宅地建物取引業者が説明義務を負うのは同条所定の事項に限定されるものではなく、宅地建物取引業者は、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である」、「土地建物を家族とともに居住する目的で購入しようとする者が当該建物において平穏に居住することを願うことは当然であるから、当該建物の隣人から迷惑行為を受ける可能性が高く、その程度も著しいなど、当該建物において居住するのに支障を来すおそれのあるような事情がある場合には、そのような事情は当該建物を購入しようとする者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想されるというべきである。」「したがって、居住用不動産の売買の仲介を行おうとする宅地建物取引業者は、当該不動産の隣人について迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うと解するのが相当である。」と述べて、仲介業者が隣人の迷惑行為等について客観的事実を認識した場合には、説明義務をとしました。

そして、本件では、本件の売買契約前に、売主側仲介業者が、別の購入希望者とともに内覧に訪れた際に、隣人が「うるさい」と苦情を述べたにも関わらず、これらの事情を買主に説明しなかった等の事情を考慮して、売主側仲介業者の説明義務違反を肯定しました。

まとめ

このように、売買契約の対象物件において隣人とのトラブルが生じている場合に、売主や仲介業者が隣人とのトラブルを説明しなかった場合、買主に対する説明義務違反が認められる可能性があります。

そのため、売主としては、売買契約締結に際して、事前に仲介業者に相談する他、買主から説明を求められた場合には、自らトラブルについて説明する必要があります。

また、仲介業者としては、近隣トラブルを認識した場合には、トラブルの存在を考慮して価格を決定し、買主に対して適切に説明を行う等の対応を行うべきかと思われます。

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弁護士 利根川竜一

 

 

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