20年以上前の自殺について仲介業者は説明義務を負うか?

はじめに

前回に引き続き、不動産売買契約における説明義務のお話です。
今回は、売買対象となる土地で過去に自殺が発生していた場合の仲介業者の調査・説明義務に関する裁判例を紹介します。

物件内で自殺や殺人が発生していたという事実は、外形的には認識することができない事実ですが、その一方で、売買契約後に事実が判明した場合、購入者の心情に及ぼす影響が大きい事実ですので、売買の仲介に際しては、慎重な調査が必要となります。

仲介業者の自殺に関する説明義務について

不動産仲介業者は、仲介契約における委託者に対して物件に関する調査・説明義務を負う他、不動産取引に関与した(直接の契約関係にはない)第三者に対しても、説明義務を負います。
そのため、買主が不適切な不動産を購入して損害が生じた場合、買主側仲介業者に対して債務不履行責任(又は不法行為責任)を追及し、売主側仲介業者に対して不法行為責任を追及することができる可能性があります。

そして、物件で自殺や殺人が発生していたという事実は、嫌悪すべき心理的欠陥として、売買契約における「瑕疵」に該当する場合があります。
もっとも、判例上、自殺や殺人が「瑕疵」に該当するかという判断については事例によって結論が分かれており、個別の事例ごとに、自殺・殺人の場所、事件若しくは事故の内容、経過年月、周辺地域での周知性、買主の購入目的等を考慮して判断が下されています。

20年前の自殺について仲介業者の説明義務違反を認めた裁判例

松山地方裁判所平成25年11月7日判決、及び、その控訴審判決である高松高等裁判所平成26年6月19日判決は、20年以上前の自殺の事実について、仲介業者の説明義務を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容しました。
問題となった自殺が殺人事件と関連している特殊な事例ですので一般化はできませんが、仲介業者の調査・説明義務を考えるうえで参考になる裁判例であると思われます。

事案の概要

本件では、買主(原告)が、平成20年12月1日に、仲介業者(被告)の仲介により、居住用建物を建築する目的で、本件土地(更地)を2750万円で購入する旨の売買契約を締結しました。
売買代金については、売買契約締結時に手付金として275万円が支払われ、平成21年1月30日に残代金2475万円が支払われて決済が完了し、同日、所有権移転登記が完了しました。

決済完了後、本件土地上に過去に存在していた建物(本件建物)内で自殺が発生していたことが判明しました。
すなわち、本件土地の元所有者は本件建物内で娘や内縁の妻と暮らしていたところ、昭和61年1月に内縁の妻が実の息子に殺害され(注:殺人の現場は本件建物以外の場所です)、その遺体がバラバラにされて山中で埋められるという事件が発生し、更に、昭和63年3月に娘が本件建物の2階ベランダで首をくくって自殺するという事件が発生しました。
上記の事件後、本件建物は平成元年に取り壊され、本件土地は、事件当時の上記所有者から転々譲渡され、平成13年ごろに本件売買契約の売主が取得されており、本件売買契約に至るまで更地の状態でした。

これを知った買主は、仲介業者に対して、(1)仲介業者が、本件土地が自殺等に係る物件であるとの重要事実を知りながら、説明しなかった、(2)仮に仲介業者が自殺等の事実を知らなかったとしても、宅地建物取引業者である仲介業者は、事故物件であるかを調査すべき義務を負っていたにも関わらずこれを怠った、(3)仲介業者は、売買契約締結後、遅くとも代金決済までには自殺等の事実を知っていたのであるから、決済完了までには自殺等の事実を買主に説明すべきであった、などと主張して不法行為に基づく損害賠償を請求して訴えを提起しました。

第1審判決(松山地方裁判所平成25年11月7日判決)は、上記(1)ないし(3)のうち、(3)の主張のみを認め、買主(原告)の主張を一部認容しました。
これに対して、買主が第1審の判決を不服として、高松高等裁判所に控訴、仲介業者も付帯控訴しました。

高裁判決(高松高等裁判所平成26年6月19日判決)は、次の通り述べて、第1審の判決を維持しました。

仲介業者が自殺等を認識していた場合の説明義務

控訴審裁判所は、本件土地上の建物で生じた自殺について、「自殺の事実が今なお近隣住民の記憶するところとなっているといえる」と述べた上で、「マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにもかかわらずあえて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい以上、被控訴人(注:仲介業者)が本件土地上で過去に自殺があったとの認識をしていた場合には、これを控訴人ら(注:買主)に説明する義務を負う。」と述べました。

その上で、本件では、諸般の事情を考慮した上で、本件売買契約締結当時、仲介業者が自殺等の事実を認識していたと認める証拠はないとして、説明義務違反を否定しました。

仲介業者が自殺等を認識していない場合の調査・説明義務

控訴審裁判所は、「本件売買契約が小さな子供を含む家族のマイホームを建築する目的であったとしても、対象物件が自殺等の事故物件であることは極めて稀な事態であることからすれば、事故物件性の存在を疑うべき事情がない場合にまで、売買の仲介にあたる宅地建物取引業者に事故物件であるかを調査すべき義務があると認めることはできない。」と述べ、事故物件性を疑わせる事情がある場合にのみ、仲介業者が調査義務を負うとしました。

その上で、本件では、本件土地が事故物件であると疑うべき事情はなかったと判断し、調査・説明義務を否定しました。

売買契約締結後、代金決済までの間の説明義務

第1審裁判所は、本件土地上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実であるともに、締結してしまった売買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実である」「したがって、宅地建物取引業者として本件売買を仲介した被告としては、本件売買契約締結後であっても、このような重要な事実を認識するに至った以上、代金決済や引渡手続が完了してしまう前に、これを売買当事者である原告に説明すべき義務があった」と述べました。

そして、本件では、仲介業者の担当者は代金決済時までには自殺の事実を認識していたと事実認定し、説明義務違反による不法行為の成立を認めました。
上記の判断については、控訴審裁判所も踏襲しています。

また、上記の不法行為に基づく損害額に関しては、控訴審裁判所は、「本来であれば本件売買契約が締結されたことを前提にしつつも、代金決済や引渡手続を完了しない状態で、本件売買契約の効力に関し、売主と交渉等をすることが可能であったのに、説明義務が履行されなかったために、代金決済や引渡手続を完了した状態で売主との交渉等を余儀なくされたことによる損害にとどまるのであって、具体的には、このような状態に置かれざるを得なかったことに対する慰謝料であると考えるのが相当である。」「控訴人ら(注:買主)が主張する損害のうち、本件土地の取得に要した支出額と本件土地の現在価額との差額(あるいはこれから手付金を控除した額)は、不法行為その三と相当因果関係がある損害とは認められない。」と述べて、買主1名につき慰謝料75万円(合計150万円)を損害と認定した第1審判決の判断を是認しました。

まとめ

このように、本件では、土地の売買契約の仲介に関して、20年以上前の自殺についての仲介業者の説明義務違反が認められています。

本件の事情としては、自殺があったのは売買の対象となる土地ではなく既に取り壊された建物であること、また、自殺が生じてから売買契約時まで既に20年が経過していることなど、説明義務を否定する方向に働く事情があります。
それでもなお、裁判所が説明義務を肯定したのは、本件で問題となる自殺の事実が、殺人事件と関連付けられて社会的な注目を集めた事件であり、また、20年以上が経過してもなお周辺住民の記憶に残る事件となっているという事情が考慮された結果であると思われます。

このように、本件の事案は、仲介業務における調査・説明義務を考えるうえで非常に参考になると思われます。
とりわけ、住宅地域であるにも関わらず長年更地のまま放置されている土地を仲介する場合や、周辺相場よりも著しく廉価な価格設定がされている物件を扱う場合などには、それらの事情について、何らか合理的な理由があるのか否かについて、慎重な調査を行う必要があるかと思われます

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