建物の白アリ被害について仲介業者は調査・説明義務を負うか?

はじめに

前回に引き続き、不動産売買契約における不動産仲介業者調査義務のお話です。

今回は、中古建物の売買契約締結後に白アリ被害が判明した場合における、仲介業者の調査義務についての裁判例を紹介します。

白アリ被害は建物の外観からは判明しづらい事情ですが、売買契約締結時に、仲介業者が白アリ被害の存在を知っていた場合や、若しくは、白アリ被害を伺わせる事情を知っていた場合には、建物の買主に対して調査・説明義務を負うことがありますので、注意が必要です

仲介業者の調査・説明義務について

不動産仲介業者は、仲介契約における委託者に対して物件に関する調査・説明義務を負う他、不動産取引に関与した(直接の契約関係にはない)第三者に対しても、調査・説明義務を負います。

そのため、買主が不適切な不動産を購入して損害が生じた場合、買主側仲介業者に対して債務不履行責任(又は不法行為責任)を追及し、売主側仲介業者に対して不法行為責任を追及することができる可能性があります。

白アリ被害のような建物の物理的な瑕疵に関しては、裁判例では、仲介業者が契約締結時に瑕疵を知っていた、あるいは、現地調査をすれば外観から瑕疵を認識できたような場合には、仲介業者の調査・説明義務が肯定されています

建物の白アリ被害について仲介業者の調査義務違反を認めた裁判例

大阪地方裁判所平成20年5月20日判決は、土地建物の売買契約に関して、売主側の仲介業者が、目的建物の白アリ被害や腐食、雨漏りについて調査を尽くすよう促す業務上の注意義務を怠ったとして、不法行為に基づく損害賠償義務を一部認容しました。

事案の概要

本件は、買主(原告)が、居住目的で売主から土地建物(以下、「本件不動産」といいます。)を購入したところ、売買対象である建物(以下、「本件建物」といいます。)に腐食や白アリ被害が生じていることが判明したために、買主が、売主側仲介業者(被告)に対して、(1)売主側仲介業者が売主と共謀して、本件建物の腐食や白アリ被害を意図的に告げなかった、あるいは、(2)腐食や白アリ被害について調査義務を尽くさなかった点が、不法行為に該当すると主張して、2357万1865円の損害賠償を求めた事案です。

判決によると、本件では、以下のような事実経緯が認められました。

  1. 買主は、居住用建物の購入を検討していたところ、平成18年5月14日、買主側仲介業者から本件建物を紹介され、同月16日に本件不動産を見学することとなりました。
  2. 平成18年5月16日に買主が本件建物を見学した際、買主側仲介業者の担当者、売主側仲介業者の代表者、及び、売主が立ち会いました。
    その際、本件建物の1階和室の柱が相当程度腐食しており、買主、仲介業者らはそのことに気づきました。
    また、売主側仲介業者の代表者は、1階のパティオに近いリビングの隅において、虫の死骸を発見し、白アリかと思いましたが、他の場所から飛んできたかもしれないとことから、誰かにこのことを告げることはありませんでした。
    また、本件建物の2階の柱にはガムテープが張られており、買主や売主側仲介業者はそのことに気づいていましたが、誰もガムテープをはがして確認することはしませんでした。
  3. 本件建物の見学終了後、買主は、買主側仲介業者に対して、本件不動産を1600万円で購入する旨の申し入れを行いました。
  4. その後、同年6月3日、売主側仲介業者は、本件不動産の売買契約締結に先立ち、本件不動産の重要事項説明を行いました。
    本件不動産の重要事項説明書には、「付帯設備および物件状況確認書」の「物件等の状況」の「〈1〉 雨漏り」欄には、「現在雨漏りがあります(箇所: )」、「未修理のまま引渡し」と、「〈2〉 シロアリの害」欄には、「現在までシロアリの被害を発見していません」と、「〈3〉 建物構造上主要な部位の木部の腐蝕」欄には「発見しています(箇所:1階和室)」と記載されていました。
    売主側仲介業者の代表者は、売主からの聴取に基づいて上記事項を記載し、売主の署名押印を得ていました。そして、上記確認書には、「本付帯設備・物件状況確認書の事項については媒介等する宅建業者では十分な調査と確認ができないところがありますので売主の確認を得ています。」と記載されていました。
    しかし、売主側仲介業者の代表者は、雨漏りについては、その箇所が複数あると認識しており、白アリについては、多少懸念を抱いていたものの、本件建物に価値がないと考えていたことから特に追及せず、腐食については、1階和室以外に、玄関左右の端、浴槽、収納部分の角にも腐食があると認識していたものの、住めないことはないと考えていました
  5. 同年6月3日、買主は、売主との間で、本件不動産を1600万円で購入する旨の売買契約を締結し、購入代金及び諸費用を支払いました。
  6. 買主は、同年7月31日、本件不動産の引渡しを受けるとともに、本件不動産の最後の確認をし、買主の妻、買主の母、買主側仲介業者の担当者、売主側仲介業者の代表者らがこれに立ち会ったところ、本件建物の腐食部分は1階和室に限らず、また、白アリ被害も生じていることが発見されました。

建物の瑕疵について

裁判所は、本件建物の瑕疵については、「本件建物は、本件契約締結前に、雨漏りによる1階和室の腐食が、本件契約直後には、1階和室以外の部分の腐食及び白アリ被害がそれぞれ確認され、本件契約締結から約半年後には、耐震診断で倒壊する可能性が高いと診断され、本件契約締結から約1年後には、白アリ被害による材木の腐朽箇所が複数確認されたというのであるから、本件契約締結時には、既に、白アリ被害や雨漏りによる腐食が相当程度進んでいたと認められる。」として、売買契約締結時に本件建物に瑕疵が存在していたことを認めました。

仲介業者の調査義務について

裁判所は、原告の主張のうち、(1)売主側仲介業者が売主と共謀して、本件建物の腐食や白アリ被害を意図的に告げなかったとの主張については、売主及び売主側仲介業者が、本件売買契約締結前に、腐食や白アリ被害について認識していたにも関わらず、これをあえて秘匿したとの事実を認めるに足りる証拠はないとして、上記主張を排斥しました。

また、(2)腐食や白アリ被害について調査義務を尽くさなかったとの主張については、裁判所は、まず、「宅地建物取引業者は、直接の委託関係がなくても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利者の真偽等につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務を負い、その注意義務の対象は、宅建業法35条所定の事項に限られるものではないと解される。」と述べました。
その上で、裁判所は、「本件の場合、原告(注:買主)は、本件建物に居住する目的で本件契約を締結することとしたのであるから、その前提として、本件建物が居住に適した性状、機能を備えているか否かを判断する必要があるところ、被告(注:売主側仲介業者)代表者も、原告の上記目的を認識していたのであるから、本件建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性を示唆する情報を認識している場合には、原告に対し、積極的にその旨を告知すべき業務上の一般的注意義務を負うなお、そのような認識に欠ける場合には、宅地建物取引業者が建物の物理的瑕疵の存否を調査する専門家ではない以上、そうした点について調査義務まで負うわけではない。)。本件不動産の価格設定の際、本件建物の価値は全く考慮されておらず、現状有姿で売主が瑕疵担保責任を負わない取引であったとしても、被告代表者が原告の上記目的を認識していた以上、上記結論は変わらない。」と判示しました。

そして、本件では、売主側仲介業者の代表者が、本件建物の見学時に、(1)雨漏りの箇所が複数あると認識していたこと、(2)白アリらしき虫の死骸を発見し、白アリ被害にも多少の懸念を抱いていたこと、(3)1階和室以外にも玄関左右の端、浴槽、収納部分の角にも腐食があると認識していた上、柱にガムテープが貼られるなどしていることも認識していたことから、「白アリ被害や柱の腐食等の存在により、本件建物が居住に適した性状、機能を十分に備えていないのではないかと疑いを抱く契機が十分に存在したと認められる。」と認定しました。
また、本件では、(4)売主が平成7年1月以降、本件建物に居住しておらず、売主側仲介業者の代表者もこれを知っていたので、売主による本件建物の状況説明が現状を正確に反映していないことを疑う余地もありました。
これらの事情を踏まえ、裁判所は、売主側仲介業者が買主に対して、「白アリらしき虫の死骸を発見したこと、1階和室以外にも腐食部分があること、雨漏りの箇所が複数あることなどを説明し、原告に更なる調査を尽くすよう促す業務上の一般的注意義務を負っていたというべきであるが、実際には、そのような注意義務を尽くさなかった。」として、売主側仲介業者の調査義務違反を認め、買主の請求のうち一部(697万3175円)を認容しました。

まとめ

このように、裁判例上、仲介業者が、売買契約締結時までに、建物の白アリ被害や腐食等の物理的瑕疵について疑いを抱く契機があったにも関わらず、更なる調査を促す等の措置を取らなかった場合、買主に対する調査義務違反となるおそれがあります
そのため、こうしたリスクを予防するため、現地調査の際には、物件の形状・性質等を十分に確認の上、不審な点があれば、売主に確認する等の慎重な対応が必要となります。

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(弁護士 利根川竜一)

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