賃借人が貸室を暴力団事務所として使用した場合、賃貸借契約を解除できるか?

はじめに

今回は、賃貸借に関するお話です。

賃貸借契約締結時に、賃借人が一般企業だと思って貸室を貸したにも関わらず、実は暴力団などの反社会的勢力であった場合、賃貸人は賃貸借契約を解除できるのでしょうか?

近年では、賃貸借契約書に、いわゆる「反社条項」を規定するのが一般的となっているため、近年締結された賃貸借契約ならば、事後的に反社会的勢力であることが明らかになった場合、反社条項違反を理由に契約を解除することができる場合が多いと思われます。
もっとも、賃貸借契約が長年更新されており、契約締結時の書式が古く、反社条項が規定されていない場合もあるかと思われます。
こうした場合でも、本項でご紹介する裁判例のように、賃貸人と賃借人との間の信頼関係の破壊を理由に、賃貸借契約を解除することが可能です。

賃貸物件に反社会的勢力が入居していることは、物件の価値低下を招き、また、他の入居者や近隣とのトラブルの原因となりますので、賃貸人としては、毅然とした対応を取ることが望まれます。

信頼関係の破壊を理由とする賃貸借契約の解除について

賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を基礎とする継続的な関係であると考えられています。

そのため、判例上、賃借人において、契約当事者間の信頼関係を破壊する行為があった場合には、賃貸人は、無催告で賃貸借契約を解除することができると考えられています

貸室を暴力団事務所として使用したことを理由とする契約解除を認めた裁判例

東京地方裁判所平成7年10月11日判決は、賃貸人による、賃借人が貸室を暴力団事務所として使用したことを理由とする賃貸借契約の解除を有効と判断しました。

事案の概要

  1. 賃貸人(原告)は、昭和59年4月10日に、賃借人(被告)に対して、地上11階建ビルの7階の1室(以下、「本件貸室」といいます。)を賃貸しました(以下、「本件賃貸借契約」といいます。)。
    賃貸人としては、本件賃貸借契約締結時において、賃借人が暴力団関係者であるとは知らず、賃貸借契約に定められた物産会社の事務所に使用されると認識していました。
    なお、本件賃貸借契約は合意更新を繰り返し、平成6年5月9日付で、賃料月額13万円、賃貸期間2年間との条件で更新されました。
  2. 本件賃貸借契約締結後、賃借人は、本件貸室を、「○○興業」という名称の暴力団事務所として使用するようになりました。本件貸室には神棚のようなものが飾られ、破門状が張り出され、暴力団事務所らしい雰囲気となり、また、ビル周辺にはベンツの車が何台も来たり、暴力団関係者らしい者も出入りしたりするようになりました。
    なお、「○○興業」は、暴力団対策法の指定暴力団である「△△会」の系列下に属する組でした。
  3. その後、平成6年11月17日に、本件貸室のドアに銃弾が三発打ち込まれ、鉄製のドア板等が銃弾貫通した穴が開く等で破損するという事件が起こりました。
    同事件は、○○興行が属する△△会と他の組織の一連の抗争事件の一つとして起こったものであり、新聞等で報道されました。
  4. そのため、賃貸人は、平成6年12月14日到達の内容証明郵便をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしましたが、賃借人が建物から退去しなかったため、賃貸借契約終了に基づく建物の明け渡し、及び、建物使用損害金を求めて訴訟を提起しました。

裁判所の判断

裁判所は、(1)賃借人が本件貸室を暴力団事務所として使用していること、(2)平成6年12月14日に本件貸室のドアに銃弾三発が打ち込まれ、鉄製のドア板等に銃弾貫通した穴が開けられるという事件が発生したこと、(3)賃借人が賃料を滞納しがちであり平成6年11月分、12月分の賃料を滞納したこと等の事実を認定し、「被告(注:賃借人)が、賃借人としてビルの共同生活の秩序を守り、近隣より苦情が出たり他人の迷惑となるような行為をしてはならないとの義務に反していることは明らかである。」と述べ、「被告(注:賃借人)の各行為は、原告(注:賃貸人)との信頼関係を破壊する背信行為であって、本件賃貸借契約を継続しがたい重大な事由であるというべきであり、原告の右契約解除の意思表示により、本件賃貸借契約は解除されたことになる。」と判断し、賃貸人の請求を認容しました

まとめ

このように、裁判所は、賃借人が賃貸物件を暴力団事務所として使用した場合に、賃貸人による契約解除を認めました。
また、大阪地方裁判所平成22年4月26日判決も、地方公共団体が所有する土地の賃借人が、当該土地上の建物を夫の暴力団事務所として使用させた行為が、土地賃貸借契約上の用法遵守義務等に違反し、信頼関係を裏切る不信行為に該当するとして、土地賃貸借契約の解除を肯定しています。

上記の平成7年の裁判例では、賃借人が暴力団事務所として使用していることが判明した後も契約を継続しており、貸室のドアに銃弾が打ち込まれた事件を契機として、賃貸人が賃貸借契約の解除を決断しております。
しかし、他の入居者や周辺住民に対する影響等を考慮すると、賃貸人の対応としては、暴力団事務所としての使用が判明した時点で、即時に契約を解除し、明け渡しを求めることが望ましいと思われます

また、今後、新たに締結する賃貸借契約に関しては、賃貸借契約書において、必ず、反社条項を規定するべきであると思われます
反社条項を盛り込む際のポイントとしては、暴対法施行以降、表面上は反社会的勢力ではない一般企業の体裁を取る組織が増え、反社会的勢力であるか否かの区別がつきにくくなっているため、契約書において、詳細かつ具体的に「反社会的勢力」の内容を定義し、事後的に反社会的勢力であることが明らかになった場合には、即時に契約を解除できるように規定しておくことが重要であると思われます

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