売買物件の近隣に暴力団事務所が存在することは瑕疵に当たるか?

はじめに

前回に引き続き、不動産取引における暴力団等の反社会的勢力との関係に関するお話です。
不動産の売買契約において、近隣に暴力団事務所等の通常嫌悪すべき施設が存在する場合、買主は売主に対して、瑕疵担保責任を追及することができるのでしょうか?

本項でご紹介する裁判例のように、売買物件の近隣に暴力団事務所が存在することを「瑕疵」と認定し、売主に損害賠償責任を認めた裁判例も存在するので、売買契約に際しては、目的物件のみならず、周辺地域の調査・説明を慎重に行うことが必要となります。

売主の瑕疵担保責任について

売買契約の目的物に「隠れた瑕疵(かし)」(=欠陥)が存在する場合、不動産の買主は、売主に対して、瑕疵担保責任を追及することができます。

「瑕疵(かし)」とは、(1)目的物が通常有すべき品質・性能を欠いている場合、若しくは、(2)売主が特に保証した品質・性能を有しない場合を意味します。
また、瑕疵が「隠れた」ものであるといえるためには、売買契約締結時に、買主が瑕疵について善意・無過失であったこと、すなわち、買主が瑕疵(=欠陥)を認識しておらず、また、認識可能性もなかったことが必要となります。

隠れた瑕疵が存在する場合、買主は、売主に対して、瑕疵が存在することにより生じた損害を賠償することを請求でき、また、瑕疵により契約の目的が達成できない場合には売買契約を解除することができます

売買対象地の周辺に暴力団事務所が存在することが瑕疵であると認めた裁判例

東京地方裁判所平成7年8月29日判決は、土地の売買契約において、目的物である土地の近隣に暴力団事務所が存在することが「隠れた瑕疵」に該当すると判断し、買主の売主に対する損害賠償請求を一部認容しました。

事案の概要

  1. 買主(原告)は、売主(被告)から、平成4年3月30日、東京都足立区綾瀬に所在する宅地66.12平方メートル(以下、「本件土地」といいます。)を、代金9100万円で購入する旨の売買契約を締結しました(以下、「本件契約」といいます。)
  2. 買主は、売買契約締結日に売買代金のうち910万円を支払い、同年4月30日に残金8190万円を支払いました。
  3. 本件土地は、南西側が幅員6メートル舗装道路、北西側が4メートル舗装道路に接面する角画地でしたが、本件契約当時から、本件土地が面する交差点を隔てた対角線の位置にある建物には、暴力団××会系○○一家総本部の事務所(以下、「本件暴力団事務所」といいます。)がありました。
  4. 本件契約締結後に、本件暴力団事務所の存在が判明し、買主は、売主に対して、(1)本件契約の詐欺による取り消し、(2)本件契約の錯誤による無効、(3)売主の契約締結上の過失、(4)瑕疵担保責任に基づく本件契約の解除、損害賠償請求を主張して、訴訟を提起しました。

裁判所の判断

裁判所は、買主の上記の主張のうち、(1)ないし(3)についてはいずれも主張を排斥し、(4)の瑕疵担保責任に関しては、以下の通り判断し、売主の損害賠償責任を認めました。

「瑕疵」の有無について

裁判所は、裁判所が実施した不動産鑑定士3名による鑑定結果を引用し、「小規模店舗、事業所、低層共同住宅等が点在する地域に所在する本件土地の交差点を隔てた対角線の位置に××会系の本件暴力団事務所が存在することが、本件土地の宅地としての用途に支障を来たし、その価値を減ずるであろうことは、社会通念に照らし容易に推測されるところ、当裁判所の鑑定における鑑定意見は、本件暴力団事務所の存在によって本件土地の価格について生じる減価割合は二〇ないし二五パーセントであるというものであり、その減価割合の当否はともかくとして、右鑑定の結果によっても、本件暴力団事務所の存在そのものが、本件土地の価値を相当程度減じていることは明らかである」と述べ、「本件暴力団事務所と交差点を隔てた対角線の位置に所在する本件土地は、宅地として、通常保有すべき品質・性能を欠いているものといわざるを得ず、本件暴力団事務所の存在は、本件土地の瑕疵に当たるというべきである。」と判断しました。

「隠れた」瑕疵であるか否かについて

裁判所は、「本件土地は、JR常磐線綾瀬駅前から派生する飲食店街の裏街区に位置し、小売・物販等の一般商業用途には馴染まない場所にあること、本件暴力団事務所のある建物は木造二階建店舗兼共同住宅であり、少なくとも本件契約時には、右建物には何ら暴力団事務所としての存在を示すような代紋等の印は掲げられておらず、右建物は暴力団事務所であることを示すような外観を何ら呈していなかったことが認められる。」との事実を認定しました。

そして、上記の事実を前提に、「通常の人が本件土地の買主となった場合には、本件土地の現場を検分しても右事務所の存在を容易に覚知し得なかったものというべきであり、通常の人が暴力団事務所の所在を容易に調査し得る方法の存在を認めるに足りる証拠はないから、本件暴力団事務所の存在は本件土地の隠れた瑕疵に該当するものというべきである。」と判断しました。

契約解除の可否について

原告は、瑕疵担保責任に基づく契約解除に関して、原告は本件土地上に原告の事務所兼賃貸マンションを建築し、これを経営することを目的としていたところ、本件暴力団事務所が存在することにより、本件土地上の建物建築工事を請け負う業者がなく、事務所兼賃貸マンションを建築することができないから、原告は、本件契約を締結した目的を達成できないと主張しました。

上記の原告の主張に関して、裁判所は、各証拠から、「本件契約の締結の後である平成五年一一月二一日に、本件暴力団事務所のある建物の東側の土地上には、鉄骨造陸屋根三階建店舗共同住宅が新築されていること、本件土地の南西側幅員約六メートルの道路を隔て、本件暴力団事務所の南東側幅員約四メートルの道路を隔てた場所には、平成七年になって三階建の木造住宅四棟が建設されていることが認められる。」との事実を認定し、「本件土地上の建物建築工事を請け負う業者が存在せず、本件土地に事務所兼賃貸マンションを建築することができないことを前提として、本件契約の目的が達成できないとする原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく、採用することはできない。」として、契約目的が不達成であるとの原告の主張を退け、解除の効力を否定しました。

損害の算定について

裁判所は、本件土地の瑕疵によって生じた損害に関しては、まず、「当裁判所の鑑定における鑑定意見は、本件暴力団事務所の存在によって生じる本件土地についての減価割合を、二〇パーセントないし二五パーセントと評価しているところ、右鑑定は、…(中略)…三名の鑑定人(不動産鑑定士)による評議によって右鑑定意見を形成しており、その判断過程は十分に合理的で納得のいくものと認められるから、右鑑定の結果に依拠して、本件暴力団事務所の存在によって生じる本件土地の減価割合については、二〇パーセントを下回らない限度において立証があったものといわざるを得ない。」と述べました。

その上で、「本件暴力団事務所の存在は、本件土地の隠れた瑕疵に当たるものと認められるところ、鑑定の結果により認められる本件暴力団事務所が存在しないとした場合の本件土地の本件契約当時の正常価格は七六〇〇万円であり、原告代表者が本件契約の締結にあたって、本件暴力団事務所の存在を知っていたことを認めるに足りる証拠はないから、右事実によれば、本件契約の売買代金(九一〇〇万円)は、本件暴力団事務所の存在を前提としないで定められたものであると認められる。」「そうであるとすれば、右1のとおり、本件暴力団事務所の存在によって生じる本件土地の減価割合は二〇パーセントであるから、本件契約に基づいて原告が被告に支払った右売買代金の二〇パーセントは、本件瑕疵によって生じた損害であるというべきである。」と判断し、売主に対して、売買代金の20%相当額である1820万円を買主に支払うよう命じました。

まとめ

以上の通り、上記の裁判例は、近隣の暴力団事務所の存在を土地の瑕疵と認定し、買主の売主に対する損害賠償請求を認めました。
裁判所が認定した事実によると、本件暴力団事務所の存在は外観からは分かりにくく、また、売主側も本件暴力団事務所の存在を認識していなかった可能性があることからすると、売主側にとっては非常に厳しい判断であるといえます。

上記の裁判例を前提とすると、土地・建物の売買契約において、目的不動産の近隣に暴力団施設等の一般的に嫌悪される施設が存在することが契約後に判明し、これにより不動産の価値が減価する場合、売主は、買主から減価相当額の損害賠償請求を受けるリスクがあることになります。

物件の周辺状況に関しては、売主側も正確に把握していない場合があり、また、暴力団事務所等は外観のみからは判別できない場合があることからすると、上記のリスクを回避するためには、売買契約に際しては、売主側において周辺状況に関しても入念に調査の上、判明した事項については、正確に買主側に告知・説明を行う必要があると思われます。

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(弁護士 利根川竜一)

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